Tsunashima Blog
この記、なんの記、気になる記

人生に失敗はない。あるとすれば、失敗を恐れて、挑戦しないこと。
だからこのブログは、成功談というよりも、失敗談になるハズ・・・

東京2020オリンピック・パラリンピック物語 戸惑い編04

無神経な解雇通知

オリンピック・パラリンピックの延期が決まった翌日、東京都の小池知事が急遽、記者会見で「感染爆発 重大局面」というパネルを掲げ、在宅勤務や外出自粛を呼び掛けていたらしいのですが、テレビは見ていなかったので気が付かずに、翌日、通常通り晴海のオフィスに出社しました。

そもそも東京2020大会組織委員会は、東京都が母体ですし、職員の大多数は都庁からの出向者なので、いの一番に組織委員会の職員にも在宅勤務を指示するべきだという気がしましたが、殆どの職員が9時には出社していました。

可笑しかったのが、通勤で使う「都営」三田線の車内が、東京2020大会の中吊り広告でジャックされており、オリンピックとパラリンピックの大会スケジュールが堂々と告知されていたことです。よりによって、大会開催の延期が決まった直後に、当初のスケジュールを告知するポスターを、都営地下鉄を使って掲示するという企画を、誰も止めなかったのでしょうか・・・延期になる可能性はわかっていたのに、あえてスケジュール告知をしたかったのか、恐らく既に印刷してしまった大量のポスターを無駄にしたくなかったという心理はわからなくもないですが、新型コロナに怯えながらも地下鉄に揺られる市民の気持ちまで、考えが及ばずに「作業」してしまったんだろうと感じました。

「延期」が発表された後、競技会場の建設や資材の発注等、履行中の全ての契約の一時凍結が決定されました。普通の企業なら、矢継ぎ早に次善策を打ったり、連日徹夜作業にでもなりそうなものですが、公益財団法人である組織委員会は、お役所体質が強く、決まったことはやりますが、決まっていないことはやる権限もなく、そもそも延期なんて計画すら作ってなかったので、この頃の職場のメンバーはきっちり定時で仕事を切り上げていました。

自分もPCの電源を落としてさっさと帰ろうとしたら、同僚の一人に「ちょっと、ちょっと」呼び止められました。そして彼のPCの画面で一通のメールを見せられたのです。それは一部の上層部限定で展開されたメールで、「1000人以上の契約職員をレイオフすることになった」と書かれていました。一瞬、「はぁ?」と思いましたし、大会の延期が発表されてからまだ1日しか経っていないのに、随分早い決断だなあと、感じながらも、「じゃあ、かなり前から裏で着々と準備してたんじゃないの?」と、勘ぐらずにはいられませんでした。

とは言え、とてもセンシティブな内容をあっさりメールで流してしまい、かつ「レイオフ」という表現を使ってしまうことに、軽率というか、無責任さを感じ、発信者の名前から、その信憑性にも違和感を覚えました。そもそもメールを発信した本人とは、たまたま3時間前にある会議で会って、今後のスケジュールの話をしたばかりだったので、その時の彼の表情を思い出し、白々しさに憤りも感じました。

自分以外にもそのメールを見せられた同僚は、明らかに動揺した表情を見せ、一体誰を信ればいいのかと疑心暗鬼になっていました。自分は、この時点では、解雇された後はどうしようかとまで、考えが及びませんでした。その時の雇用契約書には、予定していた大会が終了した直後の「2020年9月30日で契約は終了し、雇用契約の延長はない」と書かれているので、例え解雇されなかったとしても、オリンピックを経験せずに契約が終了する可能性があることは分からなくもないですが、まさか9月までの雇用契約そのものを、期限前に反故にする覚悟が組織委員会にあるとはすぐには思えませんでした。

当時、組織委員会が定期的に公表していた決算報告書によると、約900人の契約職員の人件費が年間総額で約40億円位かかっていると書かれていました。反面、都庁職員は約1000人で約90億円かかっているらしいので、平均年収に倍くらいの差があるとしても、大会が延長することで実質的に追加費用になるのは、契約職員の人件費の方になります。

都庁職員の給与は大会があってもなくても発生し、東京都の税金で賄うことになるし、パートナー企業からの出向者の人件費はパートナー企業が負担しているので、追加費用にはなりません。もし自分が納税者の立場であれば、例え40億円であっても問答無用で削減してほしいと思うことは理にかなっているとは思いました。

しかし9月までの契約を打ち切るということは、900人の失業者を発生させる行為であり、新型コロナウィルスの影響で経営が圧迫されている民間企業が解雇をすることを防ぐ助成金制度を導入した自治体自らが失業者を発生させる行為に踏み切ることはかなり不条理極まりない決断だとは思いました。

とは言え、冷静になって考えてみると、大会の開催が「中止」ではなく、「延期」されたということは、いずれは当初必要だと計画されていた人員を確保しなければならない訳で、「一旦解雇するが、12か月後に再雇用するから、それまで失業保険で食いつないでおいてほしい」と考える経営的視点があっても不思議ではないとも感じました。

経済失速で打撃を受けている観光業や航空業界等と比較すれば、ある種同然かもしれません。何としても3000億とか7000億円と報道されている追加予算を最小限に抑える必要があれば、たかだが40億円であっても削るためには、非人道的と言われようが、契約職員の解雇という決断は、可能性がないとは思えなくもありません。ただ果たして、今まで解雇に直面したことも、これから解雇をさせることもあり得ない行政の関係者が、戦略的にレイオフを実施する外資系企業などと同じようにできるのか疑問を感じずにはいられませんでした。

実際、「レイオフ」という表現を使って多くの職員にメールを送ってしまう無神経さに呆れるというか、失望するというか、プロフェッショナルさのかけらも感じなかったので、自分のキャリアに前向きに向き合うという心境には直ぐにはなれませんでした。

約30年のサラリーマン生活に終止符を打って大会組織委員会の職員に転職してから、まだ1か月も経っていません。転職する前は、これからどんな経済局面になっても、一度やると決めたオリンピック・パラリンピックに職員として関わり、成功させることで、自分のこれからのキャリアにも活かそうという志を持ってはいましたが、前代未聞の開催延期となっては、成す術がありません。いずれにしろ、これから何があっても不思議ではないし、理不尽極まりないことがまだまだ待ち受けていると覚悟を決めました。

その夜、ベッドの横にある読みかけの本、平尾誠二の「理不尽に勝つ」を読まずには寝付けませんでした。

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